僕のonly princess
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さっきまで隣にいた女の子の存在がなくなって、軽くなった左腕に後悔どころかすっきりした気持ちで、俺は帰るために駅の改札口へ真っ直ぐ足を進めていた。
改札の手前でポケットから定期券を取り出した俺は左後ろから、突然、大きな声で名前を呼ばれた。
「えっ、江本くんっ!」
雑踏に紛れて、かなり必死に聞こえるその声に、立ち止まって振り返る。
そこには案の定、女の子が立っていて。
でもいつも俺のところへくる子達とはまるっきり雰囲気が違う。
緊張しているのか強張らせた顔を真っ赤にして、必死に俺を見つめる。
2mくらい空いた距離から見ても、唇の端と胸の前に組んだ手が微かに震えていた。
「江本薫くん…ですよね?」
さっき俺を呼び止めた時よりもずっと小さな声で、確認するように訊ねるその子に「そうだよ」と笑いかければ、なぜかピクッと肩を震わせて。
ギュッと固く瞳を閉じて、勢い任せのように一気に口を開いた。
「私っ、清稜女学院2年の鶴見結花(つるみゆいか)と言います。あのっ…江本くん、その…私……あの………江本くんのことが前から、す…好きでっ、えっと…」
「……ぷっ」
「え?」
りんごみたいに真っ赤で、ギュッと眉を寄せて必死になって。
噛み噛みだし、しどろもどろだし。
俺は思わず可笑しくて、小さく噴き出していた。
そんな俺にピタリと言葉を止めて、目を丸くするその子…ゆいかちゃんは、俺のところに来る他の女の子とは全然違うタイプの子に見えた。