僕のonly princess


「この人は?」


感情を隠した笑顔を結花ちゃんに向けたまま、不自然にならないように注意して柔らかく訊ねた。


「あ……この人は…倉石勇也くん。えっと…私の幼馴染みたいなものです」


……幼馴染。


「そうなんだ」と呟いて、倉石くんへ視線を向けると俺を睨むように見る彼と目が合った。


倉石くんはただの幼馴染とは思っていないんだろう。
俺を睨む鋭い瞳がそう俺に感じさせた。


「勇也、えっと、こちらは……」


「知ってる。江本薫だろ」


結花ちゃんが俺のことも紹介しようとしたのを倉石くんは不機嫌そうな声で遮った。
俺を睨んだままの顔が憮然としていて、それを見た結花ちゃんが慌てたように「勇也!」と少し声を強めて倉石くんの名前を呼んだ。


“勇也”と呼び捨てで呼んでることも、珍しく強めたその声も、俺の知ってる結花ちゃんとは違って見えて、俺は少し苛ついた。


「はじめまして、結花ちゃんとお付き合いさせてもらってる江本です」


不機嫌極まりない倉石くんとは真逆の満面の笑顔で俺は倉石くんに声を掛けた。


苛ついてるのを絶対コイツには見せたくない。
そう思って、余裕を匂わせる笑顔を向けた俺を見て、倉石くんは一瞬、驚いたような顔をして更に深く眉を顰めた。


たぶん俺の笑顔の中にある笑っていない瞳に気付いたんだろう。


数秒、無言で睨みあうように倉石くんと視線を絡ませた。


< 55 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop