僕のonly princess
「あ、あの……」
男二人の不穏な空気を察してか、結花ちゃんが俺と倉石くんの顔を交互に見ながら慌て出した。
そのオロオロする様子がやっぱり小動物のようで、可愛らしくて。
俺はクスッと笑って、結花ちゃんに向き直った。
「倉石くんとの話は終わったの?」
俺がそう訊くと、結花ちゃんはピタッと動きを止めて俺を見上げるとコクリと頷いた。
「じゃあ、この後は俺とのデートの時間だね」
わざとデートの部分を強調して言うと、結花ちゃんは頬を赤くして頷く。
その可愛らしい仕草に俺の顔に浮かぶ笑みが自然と深まった。
「それじゃあ倉石くん、また」
結花ちゃんの手を取りながら、俺は黙って立つ倉石くんに口元だけで笑って声を掛けた。
「ゆ、勇也じゃあね」
「……ああ。早く帰って来いよ」
渋々といった顔で倉石くんが頷いて、「うん」と自然に答えた結花ちゃん。
二人の極当たり前のその雰囲気に、俺はとても違和感を覚えた。
幼馴染って帰宅時間まで心配するものだろうか?
その上、倉石くんの言い方は、まるで家で帰りを待っているとでも言っているような雰囲気で。
それに迷いもなく頷く結花ちゃんに、この二人の関係にはもっと別なものがあるような気がしてしまう。
最後により鋭い視線を俺に向けて、倉石くんは改札の中へ消えて行った。
何だろう、結花ちゃんと倉石くんの間にある特別な空気は。
やっぱりただの幼馴染だとは思えなかった。