僕のonly princess
「ごめんね、江本くん。勇也って愛想がなくて」
倉石くんの姿が見えなくなって、結花ちゃんが申し訳なさそうな声で謝ってきた。
倉石くんの態度なんて別にどうだっていい。
それよりも、結花ちゃんが倉石くんのことをそうやってよく知るほど仲がいいってことが気になる。
倉石くんの態度を結花ちゃんが謝ることさえも、気に入らない。
なんてことを結花ちゃんに言えるはずもなく、俺は表情の曇る結花ちゃんににっこりと笑って首を振った。
「ううん。気にしてないから大丈夫だよ。それより……」
それからもう一つ、倉石くんを呼び捨てで呼ぶのに、俺のことは“江本くん”なのも、ものすごく気に入らない。
「そろそろ“江本くん”じゃなくて、名前で呼んでもらえると嬉しいな」
俺はわざとらしく口角を上げて、お願いするように囁く。
俺がじっと見つめる結花ちゃんの大きな目がもっと大きく丸く見開かれた。
「ダメ、かな?」
軽く固まってしまった結花ちゃんを見つめて、首を傾げてわざと不安そうな声で畳み掛ける。
結花ちゃんは堪り兼ねたように赤く染まった顔を俯かせると、小さな小さな声で言った。
「か…薫……くん」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて初めて呼んでくれた名前。
消えてしまいそうな声だったけれど、ちゃんと俺の耳に届いたその声に俺は心をギュッと掴まれたような錯覚を覚えた。