僕のonly princess

今まで相手から呼ばれる名前なんてどうでもよくて。
相手が呼びたいように勝手に呼ばせていた。
自分からこんな風に名前を呼んでほしいなんて言ったことも当然ない。


だから自分の名前をどう呼ばれても、何も感じることなんてなかった。


ただ一人、佐知に呼ばれる『薫』だけは、すごく特別なもののような気がしていたけど、今、結花ちゃんの声で呼ばれた『……薫くん』もそれと同じくらい俺の心に波を起こした。


それは佐知の時とは全然違う種類の波。


甘い温かなホットティーを飲んだみたいに心に広がるその波が、俺はとても心地いいと思った。







本当はこの時に気付くべきだったんだ。


だけど俺はこの時、色んなものを見落としていた。


倉石くんへ感じた苛つきの正体も。
結花ちゃんと倉石くんの間にある特別な空気に焦っていた事実も。
結花ちゃんに名前を呼ばれて温かく広がった心の波の理由も。



何よりも結花ちゃんの元気のない不安そうなその様子にも。




ちゃんと気付けていたら、俺は君をあんなにも悲しませたりしなかったのに。