僕のonly princess



結花ちゃんといつものように駅で別れて、自宅へ戻るといつもは静かな家の中がなんだか騒がしかった。


廊下の奥のリビングの方から話し声が聞こえてくる。
一瞬だけ、リビングへ行くのを戸惑ったけれど、顔を出さないのもおかしいかと思い直して、俺はいつもとは違う賑やかなリビングへ向かった。


「ただいま」


リビングのドアを開けて中を覗くと、ピンク色のワンピースを着た小さな女の子が部屋の中をパタパタと走り回っていた。


遭遇したことのない光景に目を丸くする。
その時、パタパタと走っていた女の子が俺の目の前まで走って来て、いきなりパタンッと転んだ。
びっくりして、思わず足元で転ぶ女の子を抱き上げるように起こすと、転んでも泣いたりしないその子は俺の目を見てにっこりと笑った。


「………」


可愛い…。
他の何かを思うよりも先に、自然とそう思った。


小さい子の扱いはまったく不慣れで抱き上げたのはいいものの、どうすればいいのかわからない。
その上、抱き上げている腕が微かに震えるくらい緊張している。
こんなに軽くて柔らかいなんて、ちょっと加減を間違えたら壊してしまいそうだ。


「理子(りこ)、お家の中で走っちゃいけないって言ってるでしょ」


どうしようかと悩む俺の元に、キッチンから現れたこの子の母親……佐知が柔らかい口調で近づいてきた。


2年半以上ぶりに聞く佐知の声にドクンッと心臓が嫌な波を打つ。


俺のすぐ目の前まで来た佐知は、いつもの変わらない綺麗な顔で笑った。


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