僕のonly princess


「ありがとう、薫」


俺の大好きだった佐知の声が俺の名前を呼ぶ。
だけど……さっきみたいな嫌な鼓動は起きない。


「うん、いいよ」


小さく答えて腕の中にいる女の子、理子ちゃんを佐知に手渡す。
理子ちゃんはママの顔を見ながら、とっても嬉しそうに声を上げて笑った。
そんな理子ちゃんを見下ろす佐知も幸せそうな優しい笑みを浮かべていて、佐知も母親なんだな……と変に感動した。


そう、母親の顔をする佐知を見て、俺は感動したんだ。
嫌な気持ちなんて全然湧いてこない。
想像していたものとまったく違う自分の感情に俺自身が戸惑うほど、それは自然に溢れてきたものだった。


「久しぶりね。元気にしていたの?」


じっとしていない理子ちゃんを下ろして、佐知は理子ちゃんに向けていた優しい笑顔のまま俺に顔を向けた。
俺も視線を逸らすこともなく、自然にそれを受け止めて微かに口元を上げながら頷いた。


「うん、元気だったよ。佐知も元気そうだね」


俺が笑って普通に答えるのを見て、佐知は一瞬だけ目を見張って。
だけどすぐに「ええ」と頷き返して、嬉しそうな笑顔を見せた。


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