僕のonly princess
「話がしたいから、座れるところへ行こうか」
そう言って結花ちゃんと向かったのは、いつものカフェ。
今日はできるだけ他を気にしないで話がしたいから、俺は一番奥の席に座った。
「……あの、薫くん………」
普段は色々とお喋りしながら移動するのに、今日は無言だった。
今も結花ちゃんの紅茶と自分のコーヒーだけ注文して口を閉ざしている俺に、結花ちゃんは不思議に思ったのか少し不安そうな顔をして小さく声を掛けてきた。
「結花ちゃん、最近他の子から何か嫌なことされてない?」
「………え?」
唐突な俺の質問に結花ちゃんは表情を強張らせて固まった。
発した声も弱々しくて、俺を見つめる瞳は不安げに揺れている。
「酷いこと言われたり、嫌がらせされてるんじゃない?」
「………」
結花ちゃんは重ねて訊ねた俺の言葉に戸惑うように視線を彷徨わせて、そのまま俯いてしまう。
膝の上でギュッと握りしめた結花ちゃんの白い手が余計に白く見えた。
「やっぱり本当のことなんだね」
「……どうして」
結花ちゃんの様子から昨日倉石くんに聞いたことは全部本当なんだと思い知った。
心の隅ではどこか間違いだったら……と願っていた俺も、やっぱり現実は甘くはないと突きつけられた。
倉石くんがそんな嘘をわざわざ俺のところまで言いに来るわけがないって頭では分かっているのに、願わずにはいられなかった。
これから自分の口で結花ちゃんに告げる言葉を、本当はどうしても言いたくないから。
でも耐えるように唇を引き結ぶ結花ちゃんをこれ以上傷つかせたくない。
これ以上、君を苦しめたくないから。
俺はすべてを終わりにすることを選んだ。