僕のonly princess
結花ちゃんと別れて、俺はまた彼女と出逢うまでの俺に戻っていた。
毎日をただ何となく送るだけ。
学校でも家でも当たり障りにないように振る舞って、でも心は何も感じない。
結花ちゃんと一緒にいたあの1か月ほどの時間は、今思うととても特別だった。
結花ちゃんと一緒にいる時も、結花ちゃんがそばにいない時でさえ、俺の中で何かが変わっていたのか、すべてが満ち足りていた気がする。
だけどもう結花ちゃんは俺のそばにはいない。
それは俺が選んだこと。
なのに、こんなに寂しくて空虚だなんて……。
「はぁ………」
俺は重たい溜息を吐き出した。
「おーい、薫。校門の前で彼女がお待ちだぞ」
「……は?」
溜息と同時に、帰り支度を整えた鞄に手をかけたところで、教室のドアから顔を覗かせたクラスメートがニヤケた顔で俺を見ていた。
彼の発した言葉の意味がわからず、怪訝な顔で訊き返した。
そんな俺にそのクラスメートはだらしなくニヤケた顔のまま、校門の見える窓の外を指差した。
「清稜の女の子。あんな可愛い子、あんな場所で待たせてたら他の男に浚われるぞ?」
俺はその言葉に鞄を引っ掴んで慌てて走り出した。
「彼女によろしく~」
なんてのんきな声が聞こえるけど、振り向かずにダッシュする。
清稜の女の子……結花ちゃんに違いないと焦る気持ちが増した。
どうして、別れを告げたはずなのに彼女がここに来ているのかなんて頭に浮かばなかった。
俺を待ってる結花ちゃんを誰かに浚われたら……それしか頭になかった。
自分から終わらせたはずなのに、俺は彼女を誰かに浚われるなんて我慢できないと自分でも気付かないほど当たり前に焦っていた。