僕のonly princess
「………」
きっとすごく機嫌の悪い言い方だったんだろう。
背を向けたままの俺の言葉に、結花ちゃんは小さく息を呑む。
「もう別れたんだから会いに来られても困るんだけど」
俺は繋いでいた手を離して、懸命に努めて機嫌の悪い冷たい言い方で結花ちゃんに振り返ることなく、言葉を重ねる。
言いながら自分で胸が痛むけど、結花ちゃんにそれを気付かれてはいけない。
俺はグッと眉間に皺を寄せて、後ろに立つ結花ちゃんを振り返った。
「……ごめんなさい。でも私、どうしても薫くんと話したくて。メールも電話も繋がらないから他に思いつかなくて……」
俺の厳しい表情を見て、結花ちゃんは悲しそうに眉を下げた。
そして小さな声で一生懸命に言葉を紡ぐ。
その姿も顔も声も、全部が可愛くて仕方ない。
手を伸ばして抱き締めたいと欲する自分の心を押し止めて、俺は冷めた視線を結花ちゃんに向けた。
「俺はもう結花ちゃんと話すことはないよ」
「薫くん……私は薫くんのことが………」
「君は俺とじゃ幸せになれないんだ」
結花ちゃんの言葉を全部聞いてしまったら、抑え込んでる感情を我慢できなくなりそうで、俺は判を押したような台詞を繰り返した。
それに結花ちゃんは悲しそうに瞳を揺らす。
でもすぐにキュッと唇を結んで、あの時と同じ強い意志の篭った瞳で俺を見つめた。
「私の幸せは私が決める。薫くんに決めてもらうことじゃないよ」
「………」
やっぱり結花ちゃんは芯の強い子なんだ。
か弱くて儚くて可愛いだけじゃないんだと、俺はその強い瞳に見つめられながら心が熱くなった。