深海魚Lover
「それって、ゴーストライター?」

「いえいえっ、違いますよ!

 あくまで共同で物語を話し合って
 作って頂いて、挿絵はもちろん
 スガ先生が…… 
 
 それでは、ご検討の程
 よろしくお願いします」

「はい、考えてみます」


とは言ったものの、絵本作家だなんて私には無理!

今度、丁重に断ろう。

そそくさと出版社を出て行こうとした私とすれ違うのは、以前、私の担当だった人。


「スガ先生、先生だぁ

 お久しぶりです、ご無沙汰してます」


わざわざ立ち止まってくれた彼女に、私はペコリと頭を下げて急ぎ足でその場を去った。

彼女と話す事なんて私には何もない。

この出版社から毎月号発売されるティーン向けの雑誌の表紙を依頼され書き始めた頃、何も分からない私の為に一生懸命に尽くしてくれて、いい案もたくさん提供してくれた彼女に恩はあるけれど、私は彼女との距離を縮める事はしない。


私はこうして、ほとんど誰とも話さずに黙ったままやることを済ませては、また海の底に潜る。

いつもの定位置に戻る。


私が愛する場所は、我が家の一室。
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