深海魚Lover
潤司君の泣き声に目を覚ました出雲さんは、その場に飛び起きる。


小さな指から流れる血。

私は咄嗟に潤司君を抱き上げて水道水で傷口を洗い流してあげた後、タオルで切れた部分を押さえて出雲さんに言う。


「イズモさん
 
 ジュン君、指切っちゃって
 見ててもらえますか?」

「ああ」

「ここ、しっかり押さえててください」

「ああ、わかった」


出雲は、寝惚け眼で潤司の指を押さえてあげながら言う。


「ジュン、痛いか?」


潤司は、大粒の涙を零してコクンと頷いた。



私は薬箱を手に潤司君の元へ戻ると、傷口の手当てをパッパと済ませて行く。


「ジュン君、大丈夫よ
 そんなに深く切れてないから」


潤司君に微笑みかけてあげると彼もほっとしたようで、いつの間にか泣き止んでいた。

傷口を見ても痛がる素振りを見せずに手当てをし終える私の態度に、出雲さんは何かを感じ、そして何かを考えている様子だった。


遠い昔話……


『イズモ、手、見せて』


地面に、ポタポタと落ちる血痕。
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