深海魚Lover
しばし流れる時間----

返答は京次さんだけに聞こえている様子。


「紹介するよ

 芽衣子、こっちへおいで」


大きく深呼吸をひとつ

京次さんの隣へと向かおうと私はあまりにも緊張しすぎて、足元段差があることにも気づかず躓いてしまう。


「うわっ!」


前へと倒れそうになった私をサッと立ち上がり支える京次さんの腕は力強く、とても頼りがいがある。


「だいじょうぶか?」

「はい、すみません
 私ったらこんな時にまで失敗して
 しまってごめんなさい、あっ……」


私といえば墓前でまで謝ってしまう始末で、何とも情けない。

京次さんはきっと、またいつもの調子かよと呆れたはずだわ。

失敗してガッカリしてる私の腕を強く握りしめたままの京次さん----

貴方はお墓を見つめて言うの。


「まずは人のことを思いやる
 そんな優しい女の子でね……」


京次さんは話ながら、腕を掴む手を解くと今度は俯く私の頭を優しく撫でてくれる。


「正直、この世界渡って行けるのか
 とても心配で放っておけなくて
 
 俺が幸せにしてやりたいと思うんだ
 
 だから、よろしく頼むよ」
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