深海魚Lover

確かに聞こえたその声色は、女性とも子供とも感じられる。

懐かしい感じ……


「ケイジさん

　どうかしましたか？」

「いやっ……」


乗車したと同時に鳴り響く着信音に、京次の胸は騒ぎ嫌な予感がする。

携帯電話に触れる手は微かに震え、その胸はとても苦しくなる。


「……出雲？一緒には居ませんが
　居なくなったとはどういうことですか？」


一字一句聞き逃すことのないように耳を澄まし集中する京次の視線はフロントガラスの向こう、瞬きをすることもなく一点を見つめ微動だにしない。

しばらくして返答するその声は、とても深い。


「わかりました、そういう事でしたら
　私が出向きます

　ツルかぁ？何、心配するな
　出雲は俺が必ず連れ戻る」

『心配なのはキョンの兄貴も
　同じですよ！どうか無茶だけは……』

「ああ、わかってる
　俺は冷静だ、切るぞ」


見つめる視線----

通話を切った京次さん、深刻そうな顔つきで何かを考えている。