甘く熱いキスで
「エルマーが直接現場を見る前に、あいつ等をあの場に残したのが間違いだ。お前の気は綺麗さっぱり消されていたし、それもライナーとお前は更衣室を飛び出して行ったらしいな。そんな話を聞かされて、多くの人間がライナーを疑うのは仕方のないことだと思わないか?」

口裏を合わせているとはいえ、8人もの人間が同じことを言っている中で、ヴォルフがユリアの意見を通せば、ライナーは王族の贔屓を受けたと言われるだろう。また妬みの原因を増やしてしまうのだ。

「自分の身分をきちんと理解しろ。そうでなければ、今回のように他の者に利用される。今回の件は、お前の失態だ。迷惑を被るのはライナーのようだがな。わかったら、お前もしばらく部屋で大人しくして冷静になれ」

ヴォルフはそう言うと立ち上がり、ユリアの頭をポンと叩いて執務室を出て行ってしまった。
それまで2人のやりとりを執務机に座って見ていたエルマーは、ユリアに近づいてきてまた頬を伝い始めた涙を拭ってくれた。

「ユリア、ヴォルフの言う通りだよ。ライナーのことを想っているなら、ライナーのことを一番に考えて行動しなきゃ」
「……っ、わかって、いるもん」

泣いても解決しないこともわかっているし、自分に配慮が足りなかったことも理解できる。

けれど、ライナーのそばにいる、味方でいる、と約束したばかりなのにライナーに迷惑をかけてしまった自分が情けなくて、ユリアは涙を止められないでいた。

「いい機会だから、ユリアももう一度よく考えてごらん。ライナーの立場、ユリアの立場、2人の気持ちもね。ライナーとユリアの気持ちが同じなら、俺は何も言わない。でも、そうじゃないなら――」
「ライナーは私と婚約する決意をしてくれたわ!昨日、ライナーのご両親の話もしてくれた。私は、ライナーとじゃなきゃ結婚しない!」

ユリアは乱暴に涙を拭うと踵を返した。

「ユリア!…………だから、全然冷静になれてないって言うの」

荒々しく扉が閉まった後のエルマーの呟きは執務室に虚しく響いた。
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