甘く熱いキスで
エルマーの執務室を飛び出して中庭にやってきたユリアは、隅のベンチに座って鼻を啜る。走ってきたせいか頬の涙は乾いていたけれど、高ぶった感情は収まってくれない。

ふと花壇に新しく花が植えられているのを見つけて、またじわりと目頭が熱くなる。末っ子のミアは土いじりが好きでよくフローラと中庭の花壇を世話している。ユリアが小さい頃は雪遊びにつき合わされていたヴォルフとフローラ……公務も忙しいはずの彼らがユリアと遊んでくれない日はなかったように思う。

両親――そして国民から祝福を受けて生まれてきたユリアと、父親にも母親にも疎まれながらただシュトルツという制約の下に生まれてきたライナー。毎年誕生日にはお祝いのパーティを開き、プレゼントをもらい、愛されてきたユリアにはライナーの気持ちをすべて理解することはできないのかもしれない。

それでも、少しでもライナーの傷を癒していけたらいいと思ったのに、自分は空回りばかりで悔しい。

ユリアのせいで謹慎処分を受けたライナーは、今頃何をしているだろう。

ユリアに失望しただろうか。それとも、また……諦めた顔をしてすべてを受け止めているだろうか。

精鋭部隊の同僚に囲まれていたときのライナーが思い出されて、胸が痛い。ユリアは滲む涙を乱暴に拭って、人差し指に炎を灯した。

しばらくして、ゆらりと炎が揺らめく。

『はい』
「ライナー……」

ユリアの呼び出しに応じてくれたことへの嬉しさと、ライナーに迷惑を掛けてしまった申し訳なさが混じって喉に詰まる。

『ユリア様?』
「……あ、の…………ごめんなさ、い」

何とか謝罪の言葉を紡ぐと、ライナーは「いえ」と短く答えた。少しの沈黙、それからまたライナーが話し始める。
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