甘く熱いキスで
『ユリア様が気に病むことではありません。こういったことには慣れていますし……』

慣れている――それ以上悲しいことはないように思える。こんな不当な待遇に慣れることなど、本来あってはならないことだ。

「どうして……また、我慢するの?私が昨日、あんな風に出て行ったせいなのに。ライナーは何も悪くないのに」

ユリアがもっといろいろなことを瞬時に考え、判断できる人間だったなら、こんな事態は免れたはずだ。

「ごめんなさい……っ、私、ライナーの味方でいるって言ったのに、こんなことになってしまって、ごめんなさい」
『泣かないでください。貴女のせいではありません。私は、貴女が怒ってくださって、嬉しかったです。それに、謝らなくてはいけないのは、私の方です。靴を燃やされてしまって……せっかく選んでいただいたのに、申し訳ありません』

ユリアは嗚咽を漏らしながらライナーの言葉を聴いていた。

靴なんて、また買えばいいのだ。でも、傷ついても新しくできる物とは違って、ライナーの心は取り替えられない。彼の評価も……そう簡単には取り返せない。

ユリアはライナーの功績を白紙――いや、それ以下にしてしまったようなものだ。

『3日ほどで通常勤務に戻ることができるそうですから、そうしたらまた昼食をご一緒しましょう』
「……うん」

本当は今すぐ会いたい。

会って、ライナーの顔を見て謝りたい。でも、それをしてしまったらまたライナーに迷惑がかかってしまうだろう。

ライナーはユリアが落ち着くまで話をしてくれた。ようやくユリアが泣き止む頃……ユリアは「会いたい」という言葉を飲み込み、ライナーとの会話を終わらせた。

炎を吹き消して大きく息をつく。

やっと、ライナーとの距離が縮まったのに、それを自ら台無しにしてしまった気分は最悪だ。

3日――今のユリアにとって、それは永遠のようにも感じられる長い時間だった。
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