甘く熱いキスで
ベンノはユリアの戸惑いを無視するように一歩踏み出してユリアの隣に立ち、ハッハッと高笑いする。

「北方警備は野蛮人相手で大変だが、ライナーに自分の身分を思い出させるには良い場所ですからね。カペル家の長男として買い取って“もらった”自覚が足りないようだ」
「なっ――!」
「しばらくユリア様に会えないとなると、寂しがりそうですなぁ。それでは、私はこれで失礼いたします」

スッとユリアから離れてエントランスを出て行くベンノを振り返る。

ライナーを道具のように扱うベンノへの怒りで身体が震えた。その怒りには、ユリア自身への憤りも含まれている。

ユリアのせいで、ライナーは軍部で不当な評価を受け、家からも追い出されて……よりに寄ってライナーを売った父親の元へと送られるなんて。

また独りぼっちでいるライナー思うと、“迷惑になるかもしれない”と我慢していた気持ちが膨れ上がってしまった。

「北、地区……」

ユリアはそう呟いて、廊下を引き返し始めた。

明日からは通常勤務に戻るはずだったのが、ベンノの嫌がらせで伸びた――それも、最悪な形で。しかし、少なくとも公式の謹慎は今日までだったのだ。

それならば……会いに行く。
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