甘く熱いキスで
「ユリア。もうこれはお前だけの問題ではない。ライナーは呼び戻す。だが……お前とライナーの意思が少しでも食い違っているのなら、婚約も結婚も認められない」
「っ、お父様。私は――」
「お前とその子のことは、考える。お前が納得の行く形では……ないかもしれないがな」

ヴォルフには、ユリアが幸せな人生を歩めるように道を示してやる義務がある。そして、フラメ王国の未来を背負う責任も。

どちらも軽くてはならないけれど、どちらもと欲張ることは、難しい。

今、この時点でヴォルフのできる最大の譲歩がライナーを呼び戻すことだ。そして、ライナーがユリアを受け入れないときは――

「イェニー、できる限り時間を稼げ。それから――」
「承知しております」
「そうか……ならば、行くぞ」

それまで部屋の隅に控えていたイェニーは、ヴォルフの言葉に軽く頭を下げ、ヴォルフの後をついてくる。

フローラとアルフォンスを部屋に残し、ヴォルフは執務室へと急いだ。ずっと退けてきた書類の山が役立つことになるなんて、思ってもいなかったけれど――…
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