甘く熱いキスで
「ライナー!」

ライナーの姿を認めた瞬間、ユリアは駆け出していた。熱があって身体がつらいのも、ライナーの姿を見ただけで吹っ飛んでしまう。

ちょうど呪文移動で到着したところだったらしいライナーは、ユリアの声に振り向き、そして驚きに目を見開いて微かに口元を緩めたように見えた。

「ライナー……会いたかった…………私……っ」

ユリアはそのままライナーの胸に飛び込み、彼に抱きつく。

本当は、一番に伝えたかったこと――ユリアを見た時点で、ライナーは気の流れの変化に気づいたはずだ。でも、自らの言葉で伝えるのはやはり緊張する。

「私……妊娠、したの…………ライナーの……ライナーと私の、赤ちゃんよ」
「……っ、そう、ですか」

突然の知らせは、目の前に事実があっても驚くのだろう。ライナーは言葉を詰まらせ、しかし、ユリアの肩に優しく手を置いて――

「私の生きる意味を作っていただいて……ありがとうございました」

抱きしめてもらえる――そう信じて疑うことのなかったユリアは、ライナーのひどく無機質な声と彼の手に拒絶された。

身体を押し返され、2・3歩よろめいたユリアが戸惑いに顔を上げると、ライナーは目を細めてフッと笑う。

「ライ、ナー?」
「貴女と結婚するつもりはありません。なぜ、私の人生を、存在を、地の底に貶めたような人間とこの先の人生を生きなければならないのです?」

あぁ、目の前の男の人は誰なのだろう。

優しくユリアに触れてくれたのは、誰だったのだろう。
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