甘く熱いキスで
ユリアはハッと戸惑いの息を漏らし、震える足でライナーに近づこうとした。しかし、ライナーはユリアに憎しみの視線を向け、伸ばされた手を払いのけた。

その衝撃にユリアがその場に崩れ落ち、床に手をついて荒い呼吸を繰り返す。

「な……ど、うして?ライナー、貴方は私のこと――」
「貴女を好きだと……言ったことはありません」

苦しい――これは、熱のせいじゃない。空気を吸い込んでいるのか吐き出しているのか……呼吸をする度にひゅっと喉が鳴り、ユリアの身体が震えだす。

変わったのではない。最初から……全部、嘘だった?

違う。嘘でもない。確かにライナーが“好き”だと言ってくれたことは一度もなかった。それだけではない。結婚のことだって、勝負を受けてくれただけできちんと返事をもらったこともなくて、最後に会った日に“どこにも行かないで”と言ったときもハッキリと返事はしていない。

「順当に行けば、タオブン・ファルケンの統一すら可能な身分にありながら……愚かな両親のせいで“要らない”と思われながら生かされて、あげくその原因とも言える貴女に求婚されて。これほど屈辱的な人生はないでしょうね」

ライナーは鋭い目でユリアを見下ろし鼻で笑った。

「貴女が私のことを理解しようとする度に、何度貴女を殺そうと思ったことか」

そう言いながら、ライナーはユリアの目の前にしゃがみこみ、ユリアの首に手を掛けた。グッと力を入れられて、ユリアが呻く。

ライナーの冷たい手はすぐに離されたが、ユリアはじりじりとした痛みと苦しさに顔を歪めて咳き込む。

「罪人に騙され、その子供を孕んだ王女を、もう誰も今までと同じ目では見てくれないでしょう。そして、その子も……シュトルツの制約と王家の血を引くというだけの理由で生まれてくる」

ユリアが顔を上げると、立ち上がったライナーは柔らかく……すべてを諦めた虚ろともいえる表情で微笑んだ。
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