甘く熱いキスで
「貴女と私の運命は、今交わり、同じ道を辿る。私はただ……それだけのために生きてきました」

ライナーはそう言うと、ユリアに背を向けて歩き出した。移動呪文スペースまでの距離は短くて、ユリアは気力だけで立ち上がり、ライナーを追いかけようとする。

「ユリア!」

だが、走って城へと戻ってきたアルフォンスに抱えられて、ライナーに追いつくことはできなかった。

「嫌っ!離して!ライナー!待って!」

叫んでも、ライナーは振り返ってくれない。

「どうして!貴方が一番わかっているはずじゃない!ひとりぼっちはつらいって、1人で生きることがどんなことなのか、知っているのに!どうして違う道を歩もうとしないの?私と、この子と、もっとこれからたくさん――」
「わかっていないからですよ!」

ユリアの言葉に振り向くことなく、ライナーは大きな声でユリアの叫び声を止めた。

「哀れな軍人の傷を癒してハッピーエンドだなんて、夢見がちな王女様ですね?現実はもっと醜くて汚くて、どうしようもないくらい救えない世界なのです。自己満足の復讐に利用されるような王女様には一生理解できないのかもしれませんが……仮面舞踏会で運命のキスに出会うだなんて、バカバカしいにも程がありますよ」

ライナーは移動呪文スペースに入ると、すぐに呪文を唱え、彼の身体が炎に包まれた。

熱く激しい気がユリアの肌を撫でて、憎しみをぶつけられて別れのときだというのに、彼の気を感じたユリアの本能は“安心”している。

「嫌……ライナー、お願っ、待ってっ!」

ユリアの悲痛な叫びはライナーには届かなくて……

ライナーの姿が消える瞬間、彼の声が響いた。

「さようなら、私の運命の人――…」
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