甘く熱いキスで
――どうして自分ばかり。

単純な疑問と子供の嫉妬は、やがて卑屈な思考になっていく。

どんなに努力をしても、結果を残しても、周囲のライナーを見る目は相も変わらず冷たく軽蔑を含んだものばかりだ。

両親の犯した罪でライナーが受けなければならない戒めがこの世に存在することが、理不尽だと思った。ライナーの本来持つ“身分”は両親の過去に塗りつぶされてしまう。

その裏で、王子に見初められたというだけで王家の身分を手に入れたピアニストと、半分しか王家の血を引かない王子王女たちが笑っていることが、この世の不平等を物語っている。

なぜ、何の努力もせずに高貴な地位を手に入れた人間が持てはやされるのか。

なぜ、同じように生まれてきたはずのユリアはライナーと正反対の人生を歩めるのか。

そして、ライナーの苦しみと孤独に更に追い討ちをかけたのは、ベンノ・カペルという男だった。

『本来生まれるはずのない命に生きる意味を与えてやったんだ、せいぜい感謝しろ』

あの日、血の繋がりのある父親は彼から受け取った金をライナーの目の前で数え、これから父親になる男はライナーに身勝手な欲望を押し付けた。

精鋭部隊に配属され、同僚からの暴力と罵りが加わったライナーの生活は地獄ともいえるものだった。その頃にはもうライナーに自分を哀れむ感情などなくなっていたけれど。

軍人として功績を立てること、議会に出席して祖父への敬意を示しタオブンを牽制すること、そして……ユリアに近づくこと。

それが、ライナーに課せられた生きる意味だった。
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