甘く熱いキスで
生きる意味――ライナーの心に浮かんだ考えは、成人してユリアが“キス魔の王女”と呼ばれるようになってから現実味を帯び始める。

「まったく、お前の出生のせいでなかなか縁談話をまとめられん。ユリア様はユリア様で仮面舞踏会などと父親の真似事を始めおって。ヴォルフ様もユリア様への縁談を握り潰すばかり……」

そのベンノの愚痴を聞いたライナーは、そのとき自分の運命を決めた。

噂を集めれば、ユリアが仮面舞踏会で貴族の男とキスをして自分の“運命の人”を選別しているという。

それは簡単な賭けだった。何も知らず、甘やかされて育った王女――ユリアが出没するだろう仮面舞踏会へ足を運び、自分を選ばせる。

――「私と、結婚してほしいの」

ライナーの予想通り、少し強引にユリアを抱き寄せて唇を重ねると、ユリアは簡単にライナーが他の男とは違う人――運命の人だという結論を出した。

王女の機嫌を損ねることを恐れていた貴族の息子たちの話と、ユリアが憧れているという今や国民の間でも有名なヴォルフとフローラの馴れ初めから考えれば当然の結果だとも言える。

そして、ようやく……

――「私……妊娠、したの」

愚かな王女はライナーに惚れこみ、簡単に身体を委ね、ライナーの子を宿した。

同じように生を受けたのに、たったひとつ……この国の王子に愛されたというだけの条件がこんなにも2人の人生を違うものにするというのなら、罪人に愛されたという人生のうちの一瞬のような出来事がどれだけユリアの人生を変えるのか経験させてやる。

そして、ヴォルフとフローラも……自ら犯したわけでもない罪で責められればいい。ライナーの不幸の裏で、すべてを知りながら過去を忘れて平穏な日々を過ごした戒めを受ければいい。

――「私の生きる意味を作っていただいて……ありがとうございました」

自ら選び取った生きる意味は、ライナーの心を満たす――はずだった。それなのに……
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