甘く熱いキスで
「どうして……っ」

ライナーは乱暴に自分の部屋の壁を叩いた。

満たされるはずの心は疼き、「待って」と泣き叫んでいたユリアの声が耳に纏わりついて離れない。

ユリアと……僅かに自分に似た気を含むそれを感じて、鳥肌が立ったときの気持ちを認めたくなくて目を覆っても、嬉しそうに駆け寄ってきたユリアの姿が鮮明に映る。

ユリアの姿を認めたとき、満たされた心は復讐を遂げたという達成感ではなく、孤独だったライナーに温もりを与え、もう1つの命――ライナーに寄り添ってくれる存在を宿してくれたユリアに対する愛しさだった。

――「何があっても、貴方のことを信じているし、貴方の味方でいるって約束する」

無知な王女は、ライナーの中にある黒く歪んだ感情に気づくことなく、そのくせそれを赤く染めようとしてきた。
両親とは違うのだと何度もライナーを抱きしめ、庇い、「好き」だと言った唯一の存在は、いつのまにかライナーの心に入り込んだ。肌を重ねるとき、無条件に自分を受け入れるユリアに対して湧き上がる気持ちを殺したくて彼女の首筋に手を掛けながら抱いた。そうしないと、自分が壊れてしまいそうだった。

ベンノの失言のせいでユリアが会いにこなくなったとき、余計な時間がかかるとイラついた反面、このまま会わないほうがいいのかもしれないとホッとして――

「ライナー、なぜ帰ってきている?」

後ろから掛けられた声に振り向くと、ベンノがライナーを睨み付けていた。

この男も……何も知らずに他人に求めすぎる人間だ。

「ユリア様がご懐妊されたので、エルマー様より城に戻るようにと命を受けましたので」
「それは本当か!」

懐妊、という言葉を聞いた瞬間、ベンノは今まで見たこともない笑顔になった。ライナーが「はい」と答えると、ベンノはライナーに歩み寄り、肩を叩く。
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