甘く熱いキスで
「そうか、そうか。やっとお前も役に立ったな。それで、きちんと婚儀の話をまとめてきたんだろうな?うちには跡継ぎがお前しかいないから、ユリア様に降嫁していただきたいと――」

そこで、ライナーはベンノの手を払い退けた。

「ただし、私はユリア様とは結婚いたしません」
「な、何を――」
「貴方もおめでたい方ですね。私が貴方の言いなりになると本気で思っていらっしゃったのですか?」
「貴様ッ!」

フンと鼻で笑うと、ベンノは顔を真っ赤にしてライナーに飛び掛ってくる。ライナーはそれを軽く避けてベンノの身体を床へと押さえつけた。

陸軍で名を馳せたとはいえ、実践から離れて久しく、老いには勝てない。掴んだベンノの腕に力を入れると彼はグッと呻き声を上げて汗を滲ませた。

「……この程度で骨が折れるとは、貴方ももう若くない証拠です。何より、私のことを見下しすぎた」

ライナーは立ち上がると部屋を見渡し、一番奥の本棚へと近づき手をかざした。

「生きる意味を与えていただいたことだけは、感謝します。ですが……それももう、終わったことです」

本棚が燃える。

ベンノを振り返ると、床に這ったまま痛みに顔を歪めても尚、ライナーを睨み付けている。

「初めから、貴方の言う通りに行動しようなどと思ってはいませんでした。城に潜り込むためにカペルの名が必要だったから大人しくしていただけです」

本棚の隣の机に火をつける。ランプも、クローゼットの中も、ベッドも……ひとつずつ“ライナー・カペル”を消していく。
< 129 / 175 >

この作品をシェア

pagetop