甘く熱いキスで
「こんなにいるなんて聞いてない!」

ユリアが何冊目かもわからない名簿をテーブルに投げ捨てるようにして置くと、机で書類にサインをしていたエルマーはクスッと笑った。

「そりゃあ、ここにはフラメ王国全軍の名簿があるし。それよりユリアはまたアルフォンスに火をつけたわけ?仲が良いのも程々にしてよね。俺に苦情が来るんだから」
「アルがいつまでもシスコンなのがいけないのよ」
「シスコンねぇ……それ、俺もマリーに言われ続けてたんだけど」

エルマーはペンを置くと、ユリアの隣のソファに座る。

父親より年上のはずのエルマーは、まだまだ現役で軍に所属しているせいか、はたまたその軽い口調のせいか、随分若く見える。威厳とやらには興味がないらしく、口調は直すつもりもないらしいが、それが親しみやすいと部下たちに人気のある軍のトップだ。

ユリアとしては、せめてセンスの欠片もないヘアバンドくらいはやめたらいいと思っているが、何度燃やしても予備が無限に出てくるため、説得は諦めた。彼の妻であるマリーが言っても聞かないのだから相当のこだわりがあるのだろう。

「伯父さんみたいにもっと強くてかっこいい従兄弟だったら、とっくに運命なんて決めているわ」

そう言って、机に山積みの名簿をまた1つ手に取ったユリアは素早く、しかし、確実に1人1人の顔を確認していく。

「アルフォンスは、まだ18歳になったばかりでしょー?身体もそうだけど、剣術や呪文も軍に入ってからの成長は驚くくらい早いし、すぐにユリアより強くなるよ」
「それでもダメなの。私の運命は、アルじゃないわ」

頑なにアルフォンスを拒むユリアに、エルマーは昔の自分を重ねたのか苦笑した。

「運命ねぇ。ていうか、仮面被ってたのに顔見てわかるの?」
「わかるわよ!運命なんだから」

どこから沸いてくるのかはよくわからないが、自信があった。ヴォルフがフローラに辿り着いたように、きっとユリアも彼を見つけられるに違いない。

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