甘く熱いキスで
「な、ユリ――っく」

成人男性1人の体重を、ユリアが引き上げられるはずもなく、駆け寄った勢いもあってそのまま引きずられるように海へと落ちていく。

ライナーが驚いたのは一瞬、すぐに彼の腕がユリアをきつく抱き寄せ、ユリアも必死にライナーにしがみついて、離れない意思を示す。

それからライナーの気がユリアの全身を包み込み、ライナーが呪文を使うのがわかった。燃え盛る炎は、紛れもなくユリアを惹きつけたライナーのそれだ。先ほどユリアを包み込んだ炎より熱く、強くユリアを包み込み守ってくれる。

ドン、と海面にぶつかった衝撃は重く、ユリアの身体に大きく響く。海の中、どれくらい沈んだのか……ライナーの炎の中にいるため、息は苦しくないけれど、じわりと染み込むように冷たくなっていく肌が怖い。

どうあがいても、炎の呪文は水に弱い。炎属性の人間は、他属性の人間より平熱が高く、体温が低くなると気を練りにくくなる。軍で対水属性用の訓練を行ってきたライナーでさえ、体温を奪われる水の中で呪文を使い続けることは困難だろう。

ようやく水面から2人が顔を出したときには、ほとんど炎が燃えなくなっていた。

「っ、は……なぜ……?どうしてこんなこと――」
「それは私の台詞だわ!」

海に浮かびながら、ユリアは大きな声でライナーを責める。

「私を……っ、この子を、置いて死ぬつもりだったの?最初から……私と出会う前から、そう思っていたの?私は、貴方の心を変えることができなかったの?」

悔しい。

本当に、すべてがユリアのひとりよがりだったのだと思い知らされた。
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