甘く熱いキスで
「っ、ユリア、様……」

ライナーはユリアの身体を引きずって海から離れることにした。水にこれ以上触れているのは危険だ。

ライナー自身も膝をつき、ほとんど這うようにしながら砂浜へと移動する。

ようやく波が届かない場所に来ると、ユリアのドレスを脱がせ、自分も軍服を脱いだ。水を大量に含んだ服を着たままではどんどん体温が奪われる。

ユリアを抱き寄せ、肌に触れる。いつも熱く交わっていたはずの身体が冷たく、息が細い。

ライナーは震えを止めるようにユリアをきつく抱きしめ、鳩尾に意識を集中した。炎属性は、鳩尾の辺りに気の源といわれる器官がある。

ゆっくりと、呼吸を整えながら気を肌から放出する。炎とは言えないが、微かな熱がライナーを包み、抱きしめているユリアへと伝わっていく。残りの体力は、ユリアをできる限り温めてやることに使うのが良いだろう。

しかし、一度冷えた身体はなかなか本来の体温を取り戻さず、ライナーの視界もだんだんとぼやけ始め、波の音が篭って聴こえ始めた。

「ユリ、ア……さ、ま……」

謝罪なんて、今更だけれど……

死のうと思っていたことを後悔する日が来るなんて思ってもいなかった。ユリアがこんなにも強くライナーを想っていてくれることを、知らなかった――認めようとしなかった。

あんなにも熱かったユリアの体温が冷たくて、怖い。自分が死ぬことに対する恐怖などなかったのに、ユリアと我が子の命が危険に晒されていることが恐ろしく、それが自分のせいだということがライナーの胸を切り裂くようだ。

生きて欲しい。今更、身勝手なのは十分承知で、願う。ユリアが必要としてくれるのなら、ライナーも生きるから。これ以上、ユリアを、そして我が子を、傷つけることはしないと誓うから――…
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