甘く熱いキスで

シンデレラ王子

ざわつく議会の一席、父ヴォルフの隣でユリアは頬杖をついてただ一点を見つめていた。

2日前の夜、仮面を身に着けていた男は少し釣り目の涼やかな目元を惜しげもなく見せている。黒髪は軍人らしく短く刈り込まれ、タキシードを着ていてすらりとしていると思った体格も鍛えられていることがわかる。

ハッキリとした顔立ちのせいかキツく見える彼の真剣な表情とは違う、発言するときの物腰柔らかな態度。

しかし、同時にハキハキとした口調で淀みなく国境警備の状況を説明する姿は、しっかりと芯があって、あの夜強引だった腕を思い出させる――相反する2つの色が存在するような、不思議な男だ。

男の名は、ライナー・カぺル。現在陸軍を総括しているカぺル家の長男で、ユリアと同じ19歳だ。成人してすぐに議会に名を連ね、陸軍の精鋭部隊に所属しているらしい。軍人としての英才教育を受けてきただけあって、実力は指揮官のお墨付きである。

昨日、名簿の写真を見て確認しに行った呪文競技場での演習でも新人とは思えないほど俊敏な動きと正確な呪文で高得点を叩き出していた。気の気配はやはり、彼で間違いない。とはいえ、まだ正式に軍に入ってから2年も経たない彼の現在の地位は、いわゆる“下っ端”兵士である。

ユリアには気付いているはずなのに、こちらを見向きもしないのはなんだか悔しくて、ユリアは議会が始まってからずっと彼を睨みつけている。

その視線を気にしてほしいライナー本人は全く意に介さない様子で淡々と自分の報告を行い、他人の報告をメモしていく。その代わりに議事堂にいる大半の議員が、ユリアとライナーの顔を見比べてひそひそ話をしてくれているのだけれど。

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