甘く熱いキスで
静かな廊下、赤い絨毯が窓から差し込む月明かりに照らされて少しくすんで見える。

移動呪文スペースから出たライナーはゆっくりと窓際に近づき、空を見上げた。

教会でユリアと初めて肌を重ねた日が思い出される。あの日も、月明かりが2人を照らしていた。靴を燃やされて、ユリアが怒ってくれたとき……泣きそうになった。自分のために怒って、泣いてくれる人間など今までいなかったから。

そのとき生まれた感情を認めたくなくて、ユリアと離れたりくっついたり……ユリアがベンノにそそのかされて北地区の小屋まで来たときには、触れ合う温度に酔いながらもそれが義務――ライナーの決めた人生の意味――だと、言い聞かせていた。

エルマーに言われた通り、ライナーは王家側に寝返った。彼らがライナーを認めた場合、おそらくライナーを王家の密偵として扱ってくれるつもりなのだろう。

ライナーのしたことといえば、ベンノ・カペルの気を提供し、隠し空間をみつけたくらいのものだが、ライナーの行動はすべて正当化される。

「……ユリア」

窓に手を添えると、ひんやりとした外の空気の温度を感じた。

ライナーのせいで冷たくなった肌、青ざめた顔……恐怖を感じたのは初めてだったかもしれない。死んでもいいと思っていたライナーにとっては軍の任務でさえ恐れるものではなかったのに。
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