甘く熱いキスで
「死ぬのは……簡単」

一瞬の死と、永遠にも思える長い時間を苦しむ生……どちらを選びたいかと言われたら、迷わず前者だった。けれど、それは楽なほうへ逃げたいというライナーの弱さだったのかもしれない。

フッと、ライナーが自嘲したのと同時にかすかな物音が聞こえた気がして、ライナーは顔を上げた。

廊下を見渡すが、城の中ではない。窓から外に目を凝らすと、ぼんやりと地面に影が揺らめいているようにも見える。

城へ入ろうとしているのか――それにしても、夜に出入りする人間は限られているし、普通はエントランスか移動呪文を使う。

ライナーはそっと気配を消して廊下を進み、外へ出られる扉を微かに開けて様子を確認した。

今度は誰かが意志を持って動いていると断言できる影が見える。廊下側から部屋の並びを確認すると、おそらく治療室の辺りだ。

「ユリア様……っ」

今、治療室にいるのはユリアとベンノのはずだ。

ライナーは思いきり床を蹴り、治療室の扉を乱暴に開けた。すでに侵入に成功していた人物は、ライナーの剣を持ち、ユリアのベッドに突き立てようとしている。

「やめろ!」

夢中で駆け寄り、ユリアのベッドと剣の間に身体を滑り込ませた瞬間、背中が熱くなり、呼吸が苦しくなった。
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