甘く熱いキスで
「邪魔をするな!」
「は……ユリ、っ……」

霞む視界、ユリアの眠るベッドのシーツは彼女の呼吸に合わせて微かに上下している。

「お前もいちいち癪に障る奴だな?ヴィエント王国ではうまくレオ国王やルカ王子に取り入りやがって……ま、お前の功績を白紙にするくらいは簡単だったがな」

笑いを漏らしたアヒムの表情は翳ってよく見えない。

ライナーは奥歯を噛み締めて痛みに耐えながら、この状況をどうするか必死に考えを巡らせた。

「今更改心したところで、お前の評価は変わらない。どうせならもう少しフラメ王国のために役に立って死ね!」

その言葉と同時に剣の刃がライナーに向かってくる。

ライナーはそれをギリギリでかわし、アヒムの鳩尾に自分の気を溜め込んだ火の玉をぶつけた。アヒムが呻いて剣が床に落ちる。それを素早く奪うと、ライナーはアヒムの足を切りつけた。

しかし、背中の痛みで立ち上がれないライナーが不利な状況は変わらない。腕に力が入らず、アヒムの身体には大した傷がつかない。

「くっ……」

血が流れ続けるせいで、ライナーの意識もぼやけ始めている。

死んでもいいなんて……どうして思っていたのだろう。死ぬのは痛くて、苦しくて、後悔が波のように押し寄せて、愛しい人を守れないことが歯がゆくて情けない。

ライナーはまだ、何も知らなかった。人生を悟った風に大人ぶっていただけで、“生きる”という意味なんて何も理解していなかったのだ。

「フン……手間をかけさせる」

アヒムはそう言って、今度は自分の剣を呪文で呼び寄せた。間髪入れず振り下ろされる剣が、月明かりを反射して煌く。

死にたくない。

初めて、そう思った――…

< 157 / 175 >

この作品をシェア

pagetop