甘く熱いキスで
ライナーが目を覚ましたとき、すでに外は明るく、治療室は静けさを取り戻して昨夜の出来事が夢であったかのような気分にすらなった。

かなりの血が流れてしまったのか少し気分が悪いということだけが、昨夜の証拠のように思えるくらいだ。

窮屈な治療室のベッド、ライナーの隣ではユリアが静かに寝息を立てている。すっかり顔色も良くなったユリアの肌は少し熱いが、それはお腹の子の影響だろう。

「気がつきましたか?」

仕切りの向こうから、気配を感じたらしいクラドールに声を掛けられ、ライナーはハッとして顔を上げた。

「入っても?」
「はい」

短いやりとりの後、クラドールが水と薬をトレーに乗せてやってくる。

「増血剤です。気持ちが悪いでしょう?これを飲んで、一日安静ですよ。今、食事を運んでもらいますから、ゆっくり起き上がってください」

ライナーは頷いて上半身を起こす。少しふらついたのはクラドールが支えてくれた。

クラドールの言った通り、すぐに執事が2人分の軽食を運んできて、ライナーは温かな食事にホッと息を吐く。そういえば、きちんと食事をするのは久しぶりだ。

ライナーがスプーンを持ったとき、その匂いに誘われたのか、ユリアが身じろぎしてゆっくりと目を開けた。
< 161 / 175 >

この作品をシェア

pagetop