甘く熱いキスで
「私、お祖母様とお祖父様のところへ行きたいの」
「ユリア……?」
「体調も大分良くなったし、この子が生まれる前にハルツェンの家で……お母様が通っていた学校で、音楽の勉強をやり直したいの。きちんとテストを受けて、ピアノを教えられるように」

ハルツェン家――フローラの実家――はフラメ王国の西地区にあり、ユリアたちもよく祖父母の家には遊びに行っていた。今も、幼い弟や妹は頻繁に訪れている。

城のように使用人がいるわけでもなく、基本的には優しい祖父母だが一般家庭の人間だから厳しいところもあり、自分を律するのには最適な場所だとユリアは思っている。お腹の子のことで何かがあればすぐに城との連絡もとれるし、王妃の実家と言うことで移動呪文のルートも固定してあるから行き来もしやすい。

「もう、キス魔の王女もわがままな王女もやめる。ちゃんと、自分で生きていけるようになりたい。できれば、この子もハルツェンの家で育てたいわ」

音楽に関しても、幼い頃からフローラに習って一通りのことはできる。ただ、ユリアは今まで必要性を感じていなかったからフローラみたいにうまくならなくてもいい、なれないのだと思っていた。

フローラは瞳を揺らがせ、何かを迷っているように口を開きかけて閉じた。ヴォルフがそれを見て、フローラの手を握る。

そして、ライナーに視線をやると「お前は?」と問う。
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