甘く熱いキスで
「私は、エルマー様の補佐を引き受ける所存です。ユリア様とのことを認めていただけるのなら……私も、ハルツェン家にご挨拶に参ります」
「認める、か……」

ヴォルフは一度フローラを振り返り、不安そうにユリアたちを見つめる彼女と視線を合わせた。それからゆっくりとライナーに向き直ると彼の目の前まで歩いてきてフッと笑う。

「俺も、お前と同じ過ちを犯そうとしたことがある。理由は違ったし、未遂だったがな。だが……あのときフローラが俺を受け入れたから、俺とフローラはこの城で暮らしていて、ユリアが生まれて……お前が、ここにいる」

そして真剣な表情になると、拳を握り締めた。

「歯を食いしばれ」

ライナーはそれを承諾するようにゆっくりと目を閉じる。そのままヴォルフの拳がライナーの左頬を直撃して、ユリアは思わず悲鳴を上げた。

「ライナー!」

ユリアが床に倒れこんだライナーの身体を支えようと座りこむと、ヴォルフはくるりと踵を返し、玉座へと戻っていく。そしてフローラの手をとり、彼女を立たせると2人を振り返った。

「お前たちがお互いを大切な存在だと認識しているのなら、俺が口出しすることではない。生まれてくる子供も本当の両親に愛されるべきだ。ライナー、それはお前が一番わかっているだろう」
「お父様……」

ユリアは目を見開いて両親を見つめた。すると、今度はフローラが口を開く。

「お祖母様とお祖父様にも貴女たちが直接お願いしなさい。婚約発表と結婚式は準備ができたらすぐ……なさるのでしょう?」

フローラがヴォルフに問うと、ヴォルフは軽く頷く。

「ユリア……忙しくなるのだから、体調には十分気をつけてね」

それだけ言うと、フローラとヴォルフは謁見の間から出て行った。
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