甘く熱いキスで
それからすぐにハルツェン家へと赴き、許しを得た2人はユリアの体調とライナーの仕事の合間を見つつ引っ越し作業を進め、ハルツェン家での生活を始めた。

そして今日、ヴォルフとフローラに見守られて婚約式――指輪の交換――を行うために城へとやってきたユリアは、城の客室で身支度を整えてもらった後、中庭へと急いだ。

すでにそこにいた軍服姿の彼の背に、声を掛ける。

「アル」

ユリアに呼ばれたアルフォンスはゆっくりと振り返った。彼の表情は憂いを帯びたような、諦めが混じった泣き笑いのような……複雑なものだ。

「アル……」

アルフォンスを呼び出したのはユリアの方で、伝えたいことはきちんとまとめてきたつもりだったけれど、いざ本人を目の前にすると喉の奥が乾いて声が出てこない。

それだけ、アルフォンスを傷つけた自覚がある。

しばらく沈黙が続き、アルフォンスもユリアも見詰め合ったまま動かずにいたが、やがてアルフォンスがフッと笑みを浮かべて口を開く。

「おめでとう」

その表情と言葉に、ユリアの目頭が熱くなる。ユリアは何度も瞬きをしてその涙を散らし、深呼吸をした。

「アル……っ、ごめん、ね……私、アルにも甘えていたよね。ずっと、アルのこと子供だって言っていたけど……それは、私の方だったよね」

弱って、優しくしてくれたアルフォンスに寄りかかろうとした。自分が楽な道を選ぼうとして、甘えようとした。それがアルフォンスを傷つけることだってわかっているつもりで、結局自分の保身ばかり考えて……

「私……強くなる。まだお祖母様やお祖父様に頼っているけれど、“王女”じゃなくて、フラメ国民の1人として胸を張れるように、頑張るって決めたの」

ユリアはアルフォンスを真っ直ぐに見つめた。

もう、逃げない。
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