甘く熱いキスで
「私ね、ライナーのことが好きなの。この子はライナーの子よ……ライナーと私、2人で愛して育てたい。お母様とお父様が私を育ててくれたように。だから……アルの気持ちには応えられない。ごめんなさい」
「俺は……認めてない。ヴォルフ伯父さんやエルマー伯父さんたちが認めても、俺は……今でもユリアを幸せにできるのは俺の方だって思ってる」

深く頭を下げて謝罪するユリアの頭の上からアルフォンスの言葉が降ってくる。そして、アルフォンスはユリアの肩を叩き、城へと戻っていく。

「逃げてきたら、俺が逃がさない」

その言葉に、ユリアはアルフォンスを振り返った。一方のアルフォンスはユリアを振り返ることなく城の中へと消えていった。きっと婚約式にもその後の会食にも出るつもりはないのだろう。

ユリアより年下の従兄弟は……笑って2人を祝福してくれるほどの余裕はないくせに、ユリアよりも大人で、引き際を心得ている。“逃げてきたら”なんて……アルフォンスらしい励まし方だ。

ユリアは小さく「ありがとう」と呟いて、自分も城の中へと歩き始めた。

城へと1歩入ったところには、壁に背を預けたライナーがいて、ユリアを見て微笑んでくれる。
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