甘く熱いキスで
もうすぐ出産が近いからか、ユリアは少し焦っている部分があって……ライナーもユリアの祖父母も頑張りすぎているユリアのことを心配している。

「……ゆっくりで、いいのですよ」

頑張ると決意したから、努力しているから……そうは言っても、短期間での成長には限界がある。

「ユリア。今、一番優先しなければいけないのは、フィーネのことでしょう?」

フィーネ――ユリアのお腹ですくすくと育っている2人の娘の名前は、ユリアがかなり早い段階で女の子だと主張を始めたためにつけた。

「それに……正直、私は貴女が働く必要なんてないと思っています。私は貴女たちを十分養えますし、仕事を持つだけが“大人”ということではありません」
「でも……私、料理も掃除もしたことなくて、ピアノだって王女の嗜みなんていうお遊びで……全然、何もできないもん」

ユリアはエプロンをギュッと握り、床を見つめている。ライナーはそんなユリアの頭をそっと撫でて彼女の前にしゃがみこみ、彼女を見上げた。

「ユリア。貴女は、私とフィーネを愛してくれています。ユリアが頑張っていることも、私たちのためだって知っています。もちろん、できることが増えるのは良いことですが……貴女には、頑張りすぎてつらい思いをするより、ただ笑って私の隣にいてほしいのです」

ライナーが微笑むと、ユリアはライナーに抱きついてきた。ぎゅっと首に回された手の力が思いのほか強くて少し苦しいくらい。
< 172 / 175 >

この作品をシェア

pagetop