甘く熱いキスで
「ユリア」
「はい」

ヴォルフに呼ばれ、ユリアは背筋を伸ばした。

「本当に、ライナーが仮面舞踏会で会った男なんだな?」
「はい。ちゃんと、呪文を使っているところを確認したわ。確かにライナーがあの夜の男性よ」
「そうか……それなら、お前の好きなようにすればいい。ただし、婚約はお前がきちんとライナーと向き合ってからだ。ライナーについては、自分の目で判断し、説得すること。それが条件だ」

3人の深いため息と、ユリアの満面の笑みが零れるのは同時だった。ユリアはコクコクと頷いてヴォルフに頭を下げる。

「ありがとう、お父様!」
「礼はいらない。俺は別に何もしていないし、これからも口出しはしない。俺の権力でライナーに婚約を持ちかけることもしない」
「はい!」

ユリアの威勢のいい返事を聞いて、ヴォルフは少し眉間に皺を寄せた。

「ユリア。あまりはしゃぐなよ。お前の“運命”とやらはまだ始まったばかりだ。きちんと自分で見極めろ。いいな?」
「わかっているわ。それじゃあ、早速ライナーのところへ行ってきます!」

ユリアはくるりと両親に背を向けると、小走りで謁見の間を出て行った。善は急げ、運命は待ってくれない。逸る気持ちが抑えられない。

早くライナーに会って、彼と仲良くなって、ヴォルフとフローラに負けないくらいの恋人――そして夫婦になるのだ。いつか、生まれた子供には、自分たちの“運命の出会い”を聞かせて、彼らにもそれを大事にしてもらうのだ――…
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