甘く熱いキスで
そんな、ユリアが理想の未来を描きながら精鋭部隊が待機する訓練場へと向かっている頃。

謁見の間に残った4人――否、3人の表情は陰ったままだった。フローラは少し震える手を胸の前で握り締めている。ヴォルフは彼女に近づいてその手を己のそれに包み込んだ。

「ヴォルフ様……」

こんなに不安そうなフローラを見たのは、いつ以来だろう。子供たちの中でも、特にユリアには手を焼いているフローラは、ユリアの“突っ走ってしまう”性格を一番心配していた。

「こんな、ことって……」
「お前が言いたいことはわかっている。だが、ユリアはもう子供ではないし、バカでもない。自分の婚約者くらい、自分で決められるだろ」

どちらに転んでも……ユリアはいろいろなことを知り、経験するだろう。だが、それは先入観を持った大人たち――ヴォルフも含めた、彼女の周りの人間――が口出ししていいことではない。

ライナーは、優れた軍人だ。血筋もあるだろうし、本人の努力も並大抵ではない。忍耐も……十分ある。

ユリアがこれからライナーと接していく中で、彼を慕うようになるのなら、それでもいい。彼らの間に引き合うものがあるのなら、ライナーを振り向かせることができるだろう。

とはいえ、ヴォルフも娘の結婚という人生で大きな出来事を心配していないわけではない。彼らの“運命”がヴォルフとフローラと同じであればいいと願うのは、当然のことだ。

忠告はした。

しかし、ユリアがそれをどの程度真剣に聞いていたのか、受け止めたのか……先ほどの様子からして不安が残る。ユリアの興奮が薄れる頃、もう一度諭すべきだろう。そう考えながら、ヴォルフはユリアが出て行った扉を見つめた。
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