甘く熱いキスで
すると、ライナーはユリアの俯いた顔に手を添える。それに促されて、ユリアが恐る恐る視線を上げると、ライナーは相変わらず冷静な表情で、しかし、少しだけ目を細めてユリアを見ていた。

その瞳が映す感情をうまく読み取れないのは、ユリアが動揺しているせいか、読み取りたくないという本能か。

「アルは弟みたいなものなの。私のことが好きだ、自分とはキスをしてくれないからフェアじゃない、ってずっとわがままを言っていて……それで、さっきの口論になって、私もカッとなってしまって……」

あぁ、こんなのは言い訳だ。

「だからと言って、直前にプロポーズをした男の目の前で、他の男とキスをしようというのは、感心しませんね」
「……ごめんなさい」

言い返す言葉もなく再び謝ると、ライナーはため息をついた。

「正直、あまりいい気分ではありませんでした。貴女にとって、キスがその程度のものならば……私に惹かれたと言ってくださった言葉はどの程度のものなのか、と」
「っ!違うわ!ライナーのことは、本当に真剣なの」

ユリアは思わずライナーの肩を掴んで言った。

「ライナーとのキスは、特別だったわ。お父様が言っていた“火がつく”っていう表現そのものだったのよ。アルのことは、その、言い訳みたいに聴こえるかもしれないけれど、ただ宥めたかっただけなの……」

しかし、ライナーはユリアを見つめてくるだけで何も言ってくれなかった。ユリアは唇を噛みしめて、少し視線を落とした。
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