甘く熱いキスで
「ユリア様。貴女のお立場は、そんな簡単なものではないといつも――」
「イェニー」
階段を降り切ったところで、低くイェニーを呼び止める声が響く。ユリアはパッと笑顔になって声が聴こえてきた方を見た。
中庭へと続く廊下をヴォルフがこちらへ向かって歩いてくる。隣にはフローラと、彼女に手を引かれてついてくる一番下の妹ミアがいる。
ミアはユリアを見つけると「お姉様!」と言ってユリアに駆け寄ってきた。ユリアはしゃがみこんでミアと視線を合わせ、頭を撫でてやる。
「ユリアも子供ではない。行かせてやればいい。ライナーにはエルマーからきちんと伝えてあるし、城下町には見回りをする警備兵もいる。オペラの公演がある今夜は特に厳しくなっているはずだ」
ヴォルフの言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるイェニーは、しかし、ヴォルフには言い返せないようで口を引き結ぶ。それを、フローラが申し訳なさそうな顔で見つめているのは、いつもの構図だ。
「お姉様、お出かけするの?」
「うん。ライナーとオペラを観てくるわ」
「ミアもオペラ観たい!」
ピョンピョンと跳ねて、ユリアにおねだりするような瞳を向けてくる末っ子は、4歳にして兄弟とヴォルフを意のままに動かす術を心得ている。しかし、ユリアは彼女の半分は本心だろうが、もう半分は計算された行動には乗らないし、今回は譲れない。
「イェニー」
階段を降り切ったところで、低くイェニーを呼び止める声が響く。ユリアはパッと笑顔になって声が聴こえてきた方を見た。
中庭へと続く廊下をヴォルフがこちらへ向かって歩いてくる。隣にはフローラと、彼女に手を引かれてついてくる一番下の妹ミアがいる。
ミアはユリアを見つけると「お姉様!」と言ってユリアに駆け寄ってきた。ユリアはしゃがみこんでミアと視線を合わせ、頭を撫でてやる。
「ユリアも子供ではない。行かせてやればいい。ライナーにはエルマーからきちんと伝えてあるし、城下町には見回りをする警備兵もいる。オペラの公演がある今夜は特に厳しくなっているはずだ」
ヴォルフの言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるイェニーは、しかし、ヴォルフには言い返せないようで口を引き結ぶ。それを、フローラが申し訳なさそうな顔で見つめているのは、いつもの構図だ。
「お姉様、お出かけするの?」
「うん。ライナーとオペラを観てくるわ」
「ミアもオペラ観たい!」
ピョンピョンと跳ねて、ユリアにおねだりするような瞳を向けてくる末っ子は、4歳にして兄弟とヴォルフを意のままに動かす術を心得ている。しかし、ユリアは彼女の半分は本心だろうが、もう半分は計算された行動には乗らないし、今回は譲れない。