甘く熱いキスで
「ダメよ。今日はデートなの」
「でーとってなぁに?」
「うーんと、お父様とお母様が一緒にお出かけするのと同じよ」

すると、ミアは両親を振り返って少し首を傾げた後、ユリアに向き直った。

ヴォルフとフローラが2人きりで出かけるときに子供たちが連れて行ってもらえないことは、ミアも生まれたときから知っている。おそらく、ユリアの言うことも理解しただろう。

「そうなの。じゃあミアはお留守番なのね……」
「オペラはまた今度、皆で行きましょう」
「うん、わかった。じゃあ、ミアはお腹空いたからご飯を食べる。お母様」

本当にオペラに行きたかったのかどうかも怪しいミアの言動に、フローラはクスクスと笑って再びミアと手を繋いだ。だが、ユリアに視線を向けるとその表情が曇る。

「ユリア、やっぱり…………あの、遅くならずに帰って来てね」
「わかっているわ。それじゃあ、いってきます!」

フローラが言いかけたこととは別のことを言ったのはユリアにも理解できた。ヴォルフの視線がフローラを止めたからだ。

それに気づかないふりをして、ユリアはヴォルフたちに手を振ってエントランスの移動呪文スペースへと入った。そこで呪文を唱えると、炎に包まれて外へ移動できる。

移動距離は術者によって違うし、正確な場所に降り立てるかどうかも術者の腕によるけれど、ユリアは昔から移動呪文は得意だった。

一瞬熱くなる身体に内臓が浮き上がるような感覚の後、ユリアは大きく息を吸い込んだ。
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