甘く熱いキスで
「ベンノじいさんは思わぬ拾い物に大喜びだな?これからお持ち帰りするところだったのか?邪魔しちゃったかなぁ」

ククッといやらしい笑いを洩らし、ユリアの身体にまとわりつくような視線を送ってくる男に、ユリアはムッとして一歩踏み出そうとした。だが、その前にライナーがユリアの前に立つ。

「口を慎まれた方がよろしいですよ。今の発言は、ユリア様に対する侮辱とも取れます」

ライナーは男のことを知っているのか、冷静に対応している。相手も軍人なのだろうか。

「ハッ、ちょっと王族に目を掛けられてヒーロー気取りか?ファルケンの面汚しが笑わせる」

男はペッと唾を吐きだしてライナーを睨みつけた。

「お前みたいな半端者、カぺル家の長男になったところでその血は変わらない。俺も、他の連中も、誰もお前のことなんか認めてない。ベンノじいさんに拾われなきゃ、お前なんか地方の軍にすら招集されなかっただろうに、まったく、何でお前なんか――」
「黙りなさい!」

ユリアは我慢できなくなって、ライナーを押しのけて前へ進み出た。途端に顔色の変わった男や焦りを見せる女にも腹が立ち、ユリアはバチッと火花を散らす。

「ライナーは優秀な軍人よ。才能と、それを伸ばすための努力ができる立派な人だわ!たとえカぺルの名がなくても、ライナーはきっと精鋭部隊に招集された。貴方みたいに人を悪く言うことでしかプライドを持てない最低な人間とは違うのよ!」

ユリアが叫ぶと、バンっと炎が小さく爆ぜた。男の無駄に長い髪の毛が少し焦げた匂いを放つ。青ざめた彼がふらふらと尻もちをついたのを見て、ユリアは満足し、ライナーの手を引いた。

「行くわよ、ライナー」

公園に入ってすぐ、ユリアはライナーの身体を引き寄せて呪文を唱えた。
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