甘く熱いキスで
怒りに任せて呪文を使ったせいか、城のエントランスの移動呪文スペースとは程遠い、城のエントランスにある噴水近くに降り立ったユリアは息を切らせてその場にしゃがみこんだ。

少し興奮しすぎたようで、気を無駄に多く使ってしまった。先ほど感情に任せて叫んだときにも意図せずに気をまき散らしてしまったし、やはりコントロールはうまくいかないものだ。

「ユリア様……大丈夫ですか?」

ライナーがユリアの前に膝をついて、背中に手を回し擦ってくれる。ユリアは顔を上げてライナーを睨みつけた。

「大丈夫じゃないわ!どうして言い返さなかったの?あんな失礼な人間は初めてよ!」

気が足りなくて火花が散らなくて良かった。そうでなければ、ライナーの髪も焦がしてしまったかもしれない。

そんな的外れなことを考えて、それから訳も分からず涙が滲んだ。

「ユリ、ア、様……?」

ライナーが珍しく声を詰まらせる。背中を擦っていた手も止まって、茶色い瞳が揺れているような気がした。もしかしたらユリアの視界が涙でぼやけていたからかもしれないけれど。

「どうして言い返さなかったの?貴方が努力して精鋭部隊に入ったって思っているのは、私だけなの?」

今日まで、演習を何度も見に行った。ライナーが人一倍熱心に演習している姿を、ユリアは知っている。
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