甘く熱いキスで
「……本当のことだからですよ」
「本当、の……こと?」
「私がカぺル家の長男になってから受けた恩恵は、数え切れません。精鋭部隊に入ることができたこともそうです。彼が言っていたように、以前の私のままであれば……私は軍人として生きることはできなかったでしょう」

ライナーが立ち上がり、ユリアに背を向ける。ユリアはその大きな背中を追って、ふらつく身体に力を入れた。

「私が言っているのは、身分のことじゃないわ!」

少しよろけてそのままライナーの背中に抱きつく形になったユリアは、ギュッとライナーの腰にしがみつく。

「たとえどんな出生だとしても、ライナーはここまで生きてきた。王国軍に入ることができたのがカぺルの名のおかげだとしても、それはただの運よ」

言っているうちに、涙が溢れてライナーのスーツに吸い込まれていく。

「両親を選ぶことはできないわ。でも、軍人としての才能を磨いてきたのはライナー自身よ。それを否定されてどうして黙っているの!」
「えぇ。両親を選ぶことはできないのです。反論して、私の出生が変わるわけでもありません」

ライナーはそう言って、ユリアの手をゆっくりと解く。そしてユリアに向き直ると、ユリアの頬に伝う涙を拭ってくれた。
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