甘く熱いキスで
「多くの人間が私を嫌うのは、私がカぺル家の養子だからではありません」
「それなら、どうして――」
「私の母親がタオブンに属する有力貴族の娘だからです。タオブンは私の父親を、ファルケンは母親を、忌み嫌っています。その2人の子供は……どちらからも“半端者”、“裏切り者”と見なされるのですよ」

ライナーは寂しそうに笑って続ける。

「私がカぺル家に望まれたこと――両親を選べなかったことは、ユリア様の言うように運命なのでしょうね。それは、あの2人の間に生まれたときから決まっていたことです。その運命に貴女に出会うという出来事が含まれていたのは、幸運だったのかもしれません」

近づいてきたライナーの唇を、ユリアは目を瞑って受け入れた。

冷たい唇が悲しくて、ユリアはライナーの背を精一杯引き寄せる。ユリアの口内を探る舌も、そっとユリアの首筋を辿る指先も、前のキスとは別物のように温度が違う。

どうして……ユリアと出会ったことが幸運だったと言ってくれたのに、どうしてこんなに悲しいキスをするのだろう。

「ライ、ナー……」
「貴女に近づくことも、カぺル家の長男だからと許されたことでしょう?」

そうじゃない――そう言いたいのに、ライナーはユリアの唇を塞いだまま喋ることを許してくれなかった。

ライナーが持つ過去は、ユリアが想像するよりずっとつらいものなのかもしれない。それを、どうやって昇華させたらいいのか……ユリアにはまだわからなくて、ただライナーの唇を受け止めた。
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