甘く熱いキスで
一度城に戻ってシェフに作ってもらった昼食をバスケットに入れて呪文競技場までやって来たユリアは、見学席に腰を下ろして演習をぼんやりと見ていた。

ライナーはいつもと変わらない涼しげな表情で基礎訓練をこなし、呪文射的の演習の順番待ちをしている。暑苦しいほどに気合いの入った掛け声を放ちながら剣を振っていたアルフォンスとは対照的だ。

どうしてなのだろう。ユリアはどうしようもなくライナーに近づきたくて、ライナーもそんなユリアを受け入れてくれると言ったのに、もどかしい。

ライナーはユリアに優しく接してくれている。毎日演習に顔を出しても文句を言わないで食事を共にしてくれるし、オペラにも付き合ってくれた。

けれど、やはりもっと深い場所――彼の心の中にはまだ入りきれないでいる。

昨夜……あの男に絡まれて、ユリアはとても腹が立った。けれど、それ以上にライナーの心が波立っていたのは、ユリアの勘違いではないだろう。

表情や口調はあまり変わっていなかったけれど、ユリアに触れた指先が震えていたし、唇も冷たかった。

今だって、遠くからでは普段通りに見えるけれど、仲間の輪に入ることを許されないライナーの心は傷を増やしているかもしれない。ライナーの両親のことを聞いて、ライナーを見る周りの目が今まで以上に冷たく蔑んだものに見えるのは、ユリアの気持ちの問題なのだろうか。

事情はなんとなくわかった。ライナーも、おそらくユリアに言える範囲ではあるが、教えてくれた。
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