甘く熱いキスで

心の距離

「ユリア様、お待ち下さい。私は何とも――」
「何ともないわけないでしょ!あんなに動きが鈍かったのに誤魔化せると思わないで!」

ユリアはライナーの手を引いて、城の治療室に入るとソファに座らせた。

「足を痛めているみたいなの、診てくれる?」

待機していたクラドールにそう言って、ユリアはライナーの隣に腰を下ろした。今日の担当はユリアより一回り年上の男の先生だ。

「訓練で痛めたのですか?」
「いえ、本当に何ともありません。ユリア様が大げさにおっしゃっているだけで……先生の手を煩わせるほどのことは何も。すみません、今日の私の成績が少し悪かっただけですから」

クラドールの質問に困ったように笑って答えたライナーは立ち上がった。すると、クラドールはライナーの足元に視線をやって、それからまた顔を上げる。

「そうですか。少し靴がきついようですから新しいものを支給してもらうとよろしいかと思いますが……念のため、靴擦れや骨の状態を診ましょうか。奥にどうぞ。ユリア様はこちらでお待ち下さいね」

クラドールに促されて、ライナーは渋々とカーテンで仕切られたスペースへと入っていく。ユリアはクラドールの言葉に頷いてライナーを見送った。

靴を脱ぎ、クラドールがしゃがみこんでライナーの足を診察しているらしい影が薄っすらとカーテンに映る。

何やらぼそぼそと2人が話して、ライナーがため息をついた。それから徐に立ち上がり、影が動いて衣擦れの音が聴こえてくる。

ユリアはカーテンの向こうで動くライナーの薄い影から視線を外した。

靴擦れだと言っていたのになぜ脱いでいるのだろう。影しか見えないのに妙にドキドキする心臓に手を当てて、ユリアは耳を澄ませる。
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